動物病院で働いて

臨床8年目の獣医師の日々

「癌になった医師は化学療法を受けるのか」

日経メディカルオンライン版に「癌になった医師は化学療法を受けるのか」という記事があって、今日はそれに関連することを書きたいとおもいます。

 

 正確な情報は記事をご覧いただけるものとして、大森赤十字病院の佐々木槇第一外科部長の調査では、医師や薬剤師が癌患者になったときに、「胃癌の補助化学療法では10人に1人、進行・再発胃癌では実に4人に1人が化学療法に対して消極的に考えている」という。

ある病気について「こんな治療法がありますよ、ぜひ受けて下さいね」と言いながら、いざ自分がその病気になってみたら、自分はそれを選ばない、ということです。

 

この記事を読んで、それは十分にありえる話だとおもいました。一見すると、ひどい話に感じるかもしれませんが、どんな治療法も100%成功するわけではない。科学的証拠にとぼしい治療法もある。お金のかかり方もちがう。みな、価値観も異なる。だから、提案した治療法を全員が選ぶ必要もない。

 

ひるがって、僕の場合はどうだろう。僕が飼っている動物が、仮に以下の病気になったとしたら、次のような治療法は希望しない可能性が高い(それを選択する飼い主を否定するわけではありません。それは個々人の価値観や事情があってのもので、簡単に良し悪しを判定できるものではない)。

 

前立腺癌の外科的切除(術後におしっこを垂れ流す、痛みで苦しむ、手術をしなかった動物のほうが長生きして、飼い主といい時間を過ごせる、そんな場面を何度も目にしてきました)、完治不可能な呼吸器疾患と酸素ボックスのレンタル(酸素ボックスから出られないような呼吸状態。簡単に決断はできないが、安楽死は正当化されます)。

 

「先生が飼い主だとしたら、どうしますか?」

 

そういう質問をする方がいて、そのときには正直にこたえます(むしろ、そうした質問はありがたいです。お互い、正直なところを話し合うというのが、本当のインフォームドコンセントだとおもっています)。

 

結局のところ、佐々木医師がおっしゃっているように「患者(動物病院では飼い主)の希望にも耳を傾け、寄り添った治療」をすることが重要なのだ。当たり前の話です。